スピード裁判

 読売新聞の19日夕刊で知財訴訟の審理期間が半減したと報じた。
 特許権などの知的財産権を巡る民事訴訟知財訴訟)について、提訴から判決などにより第1審が終結するまでの審理期間が、この10年間で半分の約1年にまで大幅短縮されたことが、最高裁のまとめで分かった(http://www.courts.go.jp/about/siryo/jinsoku/hokoku/02/index.html)。
 平成元年には平均29.2か月、平成9年には25.1か月だったのが、平成18年では12.1か月に、約1年にまで短縮されてきている。
 知財訴訟専門の裁判官の増員や審理計画の見直しなどが功を奏した結果で、審理のスピードは、ようやく“国際標準”に追いついたと評価されている。
 半導体やバイオテクノロジーといった最先端技術などに関する特許権や、映画や音楽などの著作権、ブランド名などの商標権といった知的財産権を巡る訴訟は、一般の民事裁判に比べて審理が長期化する傾向が強く、特に欧米に比べて審理期間が長いことが産業界で問題とされてきた。
 審理が長引けば長引くほど、商品化など企業戦略に影響が出る。
1990年代後半には、日本企業が海外企業を相手取った特許権訴訟を外国の裁判所に起こすケースも目立つようになり、「知財訴訟の空洞化」が叫ばれるようになっていたという。
 そこで、一連の司法制度改革の中で、知財訴訟のスピードアップを図るため、最高裁は1997年、当時8人だった東京地裁知財訴訟専門の裁判官を2005年までに段階的に17人に増員。大阪地裁でも2004年までに裁判官を6人に倍増させた。
 さらに、特許権やコンピュータープログラムの著作権など、技術的な専門知識が必要な訴訟は2004年以降、第一審を東京、大阪両地裁だけで扱えるよう民事訴訟法を改正し、知財訴訟の80%以上を両地裁の専門部で集中的に審理するようになった。
 そう言えば、先日までNHK土曜夜9時に放映されていたドラマ「ジャッジ(島の裁判官奮闘記)」の主人公、三沢恭介裁判官は、鹿児島県の南に浮かぶ大美島、その地方(家庭)裁判所支部に、転勤してくる前、大阪地裁の知的財産専門部に勤務し激務の日々を送っていた。
 知財訴訟の件数は、97年は549件だったが、99年に772件まで増えた後、2002年以降は落ち着きを見せ、600件台で推移している。
 訴訟件数が減っていないのに、審理期間が短縮した理由について、最高裁は「裁判所の体制作りに加え、弁護士など訴訟当事者が経験を積んできたため」と説明している。
 法科大学院の設置、法曹資格者増員計画、裁判員制度導入、会社法の改正等、昨今の司法制度改革は目を見張るものがある。実際にその効果が現れた施策も随分でているようだ。
 集中化によって専門性を上げ、事務を効率化していく過程は、どの企業においても共通の改革事項である。
 知的訴訟を通じて、裁判所のタイムベース戦略を垣間見ることができた。