農政にそれほど税金は必要か?

 これは、慶應義塾大学経済学部土居丈朗准教授が、月間税務事例(財経詳報社刊)10月号の「税と経済学の交差点」に寄稿された論評の題名である。
 世界的には農業の自由化、活性化が急務となっている一方、先の参議院選挙で民主党が農家への戸別所得補償制度を公約に掲げたことから、税金をいかに農政のために投じるかというテーマで書かれている。
 その視点は、食料自給率が低いのは、専業農家は全体の2割で大半が兼業農家であり食料自給率が低くて当たり前だという点だ。しかし、「食料自給率が低い」という話になったとたんに、兼業農家が圧倒的に多数であることを忘れ、すわ食糧安保だとかと慌てて、農家につい過保護になりがちだということだそうだ。
 農家の中には、農業とは別に主たる仕事を持つものがおり、そうした状況では、農業で大きく儲かると多く所得税を納めなければならないため、あえて農業では利益を上げようとせず、所得と経費がほぼ等しい状態(あるいは赤字)になる状態にして先祖代々の土地を維持しつつ、程々に農業もしつつ、累進課税される所得税はそれほどに多く払わずに済むといった税金対策をしている農家もいるという。
 こうした発想では、農業の生産性を高めようとか、儲かる農業をしようという意欲には結びつかず、農家に税金を使って様々な政策を講じても、食糧自給率はあがらない。だから、安直に農家に財政支出を投じても意味がないと断じていらっしゃる。
 unizouも、民主党が「農家への戸別所得補償制度」を公約に掲げたときに、この党はとち狂ってしまったかと思っていたので、土居准教授のおっしゃることに賛成である。もっと、産業としての視点から、農業に関わっていかないと、本気で農業に取り組んでいる人たちも報われない。
 土居准教授は、論評の後半部分で「日本の農業の活路」について、「産地のブランド化」、「農地に関する税制」という視点で考えていらっしゃる。
 産地のブランド化については、今までは護送船団方式で低品質の農産物しか作れない産地が産地を偽っているために高品質のものを作れる産地が得るはずだった付加価値の一部を享受して、淘汰されるべきであったのに生き残ってしまっている。さらには、補助金まで与えているという。
 これからは、補助金を与えず、市場を通じて淘汰されるようにすべきだという意見だ。
 また、税制については、保護的な側面が強く、それが農地の集約化・大規模化を阻んでいる側面があるという。
 小規模の農地を所有して農業を営み収益がさほど上がらないとしても所有することのコスト意識が希薄になり、集約化や大規模化の取り組みに応じないといったことがおこるという。
土居淳教授は、「土地を持たずに農業を営む者にも然るべき所得が得られるように労働市場で調整される」とも述べていらっしゃる。
 そして、最後に「『食料自給率向上のために』とか、『食の安全安心』といった言葉の前に多くの人が思考停止的かつ無批判に、農業は保護してよい、農業に税金を投じてよい、と思う向きがありますと述べ、「やるべき方策を行わずに税金を投入するのは本末転倒」と断じていらっしゃる。
 unizouもなってもいない診断士の立場から、「産地ブランド化」「農地に関する税制」に関する土居准教授のご意見に根っこから大賛成である。
 農業という産業のステータスを高めるためにも、是非土居准教授のおっしゃる視点で国民全体が農業を暖かく育てていくことが、将来の農業にも、農業従事者にとっても、大事なことだと思っている。