幸せのかたち 〜時は流れない。それは積み重なる〜

 毎日、毎日、何気なく生きていても、いろんなことが起きる。
 10人いれば10人に、100人いれば100人に、毎日、毎日、さまざまなことが起きる。
 これは、人が生きていれば当然のこと。
 目標を持って生きていくときに、急にはしごをはずされるようなこともある。
 何かをやってすべてうまくいったつもりでも、何か一つだけ忘れて画竜点睛を欠くなんてこともある。
 それでも、イベント(節目)に向けて、毎日、毎日、ルーティンに物事をこなし生きているのが人生なのかもしれない。
 そして、一つのイベントが終わると、次のイベントへ向けて生きていくように・・・。
 いいことも、いやなこともすべてひっくるめて、自分の生き様であり、人生なのだと受け入れること。
 部下職員のK君。精神的な弱さから軽欝気味だったが、この1年、「朝起きて、出勤。日中はきちんと仕事をこなし、そして、帰宅。」ということを、ほぼ毎日こなせるようになった。
 次の彼のイベントは、病気のため受講できなかった、3か月に及ぶ社内研修の受講。
 今回、受講対象者が発表になったが、残念ながら、彼の名前はなかった。
 全社員を対象にして、入社3年目で受ける研修なのだが、まだ、病気のこともあり、今回の研修受講者には入れなかったようなのだ。
 そのことを告げると、彼のショックはかなり大きかった。そして、次の日休んだ。
 そして、メンタルクリニックへ行くと言うので、一緒に行くことにした。
 待合室には、たくさんの人が診察を待っていた。
 K君の診察になるまでの間、1時間近くあっただろうか。K君と話をしながら待った。
「辛かった?」
「何も考えられなくなって。考えがまとまらなくて。昨日は、ほとんど眠れなくて・・・」
「ショックだよね。でも、今回のことで落ち込んで仕事ができないようでは、今までのことが水の泡だよ。」
「わかっているのですが・・・」
「先の目標を失うことは確かに辛いだろうけど、こんな風には考えられないのかな。毎日、毎日、ベストを尽くして生きていく。その積み上げが結果になると・・・。まだ、その積み上げが足りなかったと思って、毎日を送ってみたらどう?一からやり直すということじゃなくて。今までのがんばりは、課内の誰にも引けを取らないし、それを自信にしたら・・・」
「この1年、ほんとうに良かったです・・・。」
 その後、診察を受けて、帰宅。
 次の日から、また、出勤している。今までの元気はまだないが・・・。
 自分ではどうしようもないこともある。それを受け入れて、淡々と生きていくこと。
 しかし、人によっては、それが難しいこともあるだろう。
 昔、大好きな俳優ショーンコネリーが「時は流れない。それは積み重なる」というキャッチコピーのサントリーのウィスキーのCMに出演していた。
 ショーンコネリーを好きになったのは、007のような彼の若いときの出演作を見たからではなく、ケビンコスナー主演の「アンタッチャブル」を見てからだった。
 人生の酸いも辛いも味わって、その顔からは渋みがあふれ出ていた。
 顔のかたちがいいとか悪いというのでなく、大人の男として格好良かった。
 自分に起きることをすべて受け入れて、真剣に生きている証のような顔だった。
 時は積み重なる。
 遠い未来に幸せのかたちがあるのでなく、ベストを尽くして歯を食いしばって生きている今の姿こそ、本当は幸せのかたちなのだと思っている。