図書館で人生リセット

 以前、毎朝TBSラジオで放送している「森本毅郎・スタンバイ!」を聞くのを日課にしていた時期があった。
 その番組には、木曜日の放送に「スタンバイ・ブックナビ」という本の紹介をするコーナーがあり、本の雑誌社顧問の目黒考二さんと書評家の岡崎武志さんが本の紹介をしていた。
 「どうしてこんな本を詳しく知っているのだろうか?」といつも感心し、紹介された本を「読みたい」と思うことがしばしばあった。
 ある日紹介されていた本は、自殺した4人の主人公(大学受験に失敗した青年、30代の女性、中年の男性、そして60過ぎの暴力団組長)が、神様から「自殺しようとしている100人の命を救いなさい」といわれ、100人それぞれの苦悩と主人公4人のドラマが重なっていくといった内容の「高野和明『幽霊人命救助隊』文藝春秋刊という本だった。
http://www.tbs.co.jp/radio/stand-by/talk/thu/index-j30.html
 どうしても読みたくて、何度か図書館で探したが、いつも貸し出し中になっていた。
 結局、今でも、読むことができないまま過ぎてしまっているのだが・・・。
 というわけで、「本を読みたい」と思うと、その本のことを思い出していた。
 そんな意識があるせいか、4月10日(火)の読売新聞朝刊に掲載された緩話急題のコーナー「自殺したくなったら 人生リセット 図書館で」という記事に興味を覚えた。
 滋賀県東近江市の市立能登川図書館では、一人が年間に読む本の平均が12.1冊と全国平均の4.7冊に比べ郡を抜いているという記事だった。
 なぜ、小さな町の小さな図書館に、そんな実力があるのか?
 そのための工夫が図書館の作りにあるという。
 それは、「図書館の中は見通しが悪く、至るところに死角がある」ということだという。
 そして、この死角こそが、大きな特色だと・・・。
 書架の間に椅子がある。そこに腰掛けて、来館者は自分だけの空間作る。
 朝から来ている70歳の女性は、童謡を口ずさみ、疲れるとお茶を飲んで一休み。「いつも、まぐれ(夕方)までいるんよ」という。
 リストラされた中年男性は、「家には、うち(自分)の居場所がのうてな」という。
 開館以来、約10年間、館長を務めた才津原哲弘さんは、「図書館に一人一人の居場所を作りたかった。ぶらりと立ち寄ることができて、人生のリセットができる場所を」という思いで、やり直せる図書館を演出したという。きっかけは、破産で自殺した友人の死だった。
 「自殺をしたくなったら、図書館へ行こう」と紹介したのは、元日本図書館協会理事長の竹内絜という方だそうである。7年前の講演で、米国の図書館のポスターを紹介した。
 ポスターには、積み重ねた書籍を前に、頭に拳銃を当てた男性がいて、その人の下に次のような一言が書いてある。「もしあなたが自殺しようと思うのなら、おやめなさい。その代わりに図書館へおいでください」と・・・。
 「図書館で所蔵する膨大な本の中に、自殺の原因を解決するものが必ずある。図書館員がそれを探す手伝いをする。だから自殺はやめなさい」と訴えているという。
 記事で紹介している市立能登川図書館の館長才津原哲弘さんは、ガンの宣告を受け、毎日病院と自宅を往復する一人暮らしのおばあちゃんが、毎日、図書館を訪れ、ついに来られなくなった時に本を届けた。そのときに、「図書館は、魂を癒す場所ですね」と言われたのが、特に記憶に残っているという。
 自殺まで考えなくても、人生をリセットしたいと思うことは誰にでもあるように思う。
 自分の環境を大きく変えたいと思うほどでなくても、何かきっかけが欲しいと思うことは・・・。
 一度、走る続けることを少し休んで、図書館で時間を忘れて、自分だけの空間にどっぷりと浸ってみるのも良いかもしれないと記事を読んで思ったのだが、当分難しそうである・・・。