農業と診断士Ⅱ

 丁度10年前くらいになるが、農地の売買に関わっていた時期があった。
 農業に携わっていないにも関わらず農地を相続し、何らかの事情があってその農地を手放したいという場合の売買である。
 ところが、農地を買う人はその近所にはいない。
 なぜなら、減反政策により休耕している人が多い中で、今持っている農地をさらに広げようとする人などいないからである。
 都市近郊であれば、開発に伴って莫大な譲渡収入が見込めるので、投機的な目的で入手しようとする農家もいるだろうが、地方に行けば、高速道路などの用地として収用されることがない限り、誰も見向きもしないのが現状である。
 しかし、中には農業をするために脱サラして、農地を取得したいというようなケースもある。
 実際、長野県富士見町の農地を売買するときに、東京に住んでいた50歳前後の方が、農地を取得したいということで、申込みをされてきたことがあった。
 しかし、農地の取得には、農地法の制限がある。
 農地法3条には、「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用賃借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可(これらの権利を取得する者(政令で定める者を除く。)がその住所のある市町村の区域の外にある農地又は採草放牧地について権利を取得する場合その他政令で定める場合には、都道府県知事の許可)を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第5条第1項本文に規定する場合は、この限りでない。」 と規定されており、農業委員会の許可や都道府県知事の許可を受けなければならないのである。
 脱サラしても、農地を取得することができないわけではないが、全国農業新聞の2003/6/27の記事によると、いくつかの要件がある。

 この許可を受けるには、満たさなければならない要件がいくつかあります。主なものとしては、(1)農地のすべてについて耕作の事業を行うこと、(2)農地の取得後において必要な農作業に常時従事すること、(3)農業経営の状況、居住地から権利を取得する農地までの距離等からみて、その農地を効率的に利用することができると認められること、(4)農地の権利取得後の経営面積が下限面積(原則として都府県50アール、北海道2ヘクタール)以上となることが挙げられます。これらを満たせば、元サラリーマンでも許可を受けることができます。http://www.nca.or.jp/shinbun/20030627/s_nouti030627.html

 しかし、この下限面積について、まとまった農地を一挙に取得するのはなかなか難しい。
というのは、一部に農業にやる気をなくした人がいても、多くは高齢者でとりあえず先祖代々の土地だからと、所有し続ける人も多いのである。
 だから、やる気がある人には、なかなか農地を取得できない。
 こういったことに起因して農業が直面している問題を、以前紹介した「「問題解決が」できる人できない人」中島孝志著:三笠書房の中で、著者は次のように述べている。

 2001年4月に、中国産のネギ、生しいたけ、畳表に対するセーフガード暫定措置の発動があった。(中略)
 ネギや生しいたけ、畳表の三品目を考えてみても、これらの商品は中国人が欲しいものではない。すべて日本人向けのものだ。つまり、これらの問題は、中国やベトナム対日本という構図ではないのである。ズバリ言えば、「日本の国内農家」対「日本の商社」の対立なのである。さらに言えば、「日本の農家」対「消費者」の対立である。
 どうしてこういう問題が起きるか。それは、国内生産者(農家)の生産性が低いからである。その一言に尽きる。(中略)
 中国に負けたくないなら、国内農家もプロ意識を持って本格的に産業として取り組んではどうか。もちろん政府からの補助金などを当てにせず、スーパーや小売りの八百屋に喜んでもらえるように経営努力してみてはどうか、付加価値さえあれば、高い値で取引できるのが野菜ではないか。京都の聖護院かぶら、加茂なす、九条ネギ、埼玉の深谷ネギ、下仁田ネギなどのブランドは健在である。

 消費者を相手にした農業をするために、診断士になれたら何ができるのか、鍋をつつきながら真剣に考えることにしようと思う。
 ただ、農業の問題を複雑にしているのはほかにもある。
 「減反政策の弊害として、日本の原風景が失われること、自然環境が変化し生態系に影響を与えること、伝統ある農業文化が失われることなど」といった、本来、別の次元で議論されることが、一緒の土俵に上ってしまうことである。