朝のふれあい

 支社に勤めていた数年前まで、出勤時間の1時間以上前の7時過ぎには自分の席に着くようにしていた。
 朝のうちに仕事をして、1日の段取りを付けておきたかったからだ。
 その時間に行くと、始業時間前に支社のビルの清掃をしている年配の女性Oさんが来ていた。毎日同じ時間に同じように仕事の段取りをしていると、Oさんとかなり親しくなった。
 Oさんは、70を少し過ぎていて、定年まで勤め上げた会社を退職し、いまは、ビルの清掃業務を請け負っている会社で働いていた。
 Oさんは娘さんが3人、みなそれぞれに所帯を持っていていまは一人暮らし。一昨年末娘が出産したが、娘さんの命も危ないほどの難産で、生まれた子は超未熟児だった。今では、母子共に元気になって、Oさんの勤めが終わる昼の12時を過ぎると、末娘の家に行くのが日課になっていた。Oさんの趣味は俳句で、市報へ投稿するなどしていた。(以前、市報に取り上げられた俳句を集めた句集をいただいた。)
 こんな具合に、毎日、ほんの少しの会話を楽しみ、その人となりに触れた。
 そのOさんが、昨年の暮れに清掃会社を辞めたという話を人づてに聞いた。
 転勤になるときに、句集の一部を使ってカレンダーを作ってあげる約束だったが、なかなか進まずにずっと気になっていた。
 そんなこともあって、先日絵葉書を送った。その返事が、昨日届いたのだ。
 送った絵葉書には、こう書いてあった。


 あなたからは
 たくさんたくさんもらったの
 目にはみえないもの
 でも とっても とっても たいせつなもの
 

 その絵葉書のお礼に、次のようにしたためてあった。

 お葉書 戴いて とても嬉しかったです。(中略)
 人生の材料 人生の味 人生の師
 大切な物ほど 見る気がなければ 一生見えない
 
 これからも皆さんに感謝し 大地の春の 
 ぬくもりを感じながら 心豊かに 
 日々を大事に過ごしたいと
 思っております
 膝に来る 孫取り巻いて 初笑い

 人生の喜怒哀楽を感じさせる内容に、人間の深い叡智と勇気を感じさせる。
 年は随分違うが、朝のふれあいで得た不思議で、大切な交流である。