資金繰り表
「そんなの作れるはずないだろ!」
もう、10年以上前の話になる。取引先の社長の夫に個人的に借金を申し込まれ、相談に乗っているときに言われた言葉である。
その会社は、登記上は奥さんが社長で、夫が実質的に取りし切っている。それに、パートを5人くらい雇って営業しているラブホテルである。
夫婦は、部屋数が8室くらいのラブホテルを借入れで手当てして約1億で購入したものの、道路の拡張工事のためにお客が激減して、収入がほとんどジリ貧だった。その状態が3年くらい続いたが、結局何の補償もなかったので、借入金の返済負担が大きく、親戚、知人・友人、挙句は取引先の社員のunizouまで借金の申込みをしてきたのである。
その話があったときは、道路の拡張工事も終わり、安定した収入が入ってくるようになっていた。
しかし、収入が激減していたときにサラ金などにも手を出してその返済に追われて、その場しのぎで資金手当てをせざるを得ない状況になっていた。だから、当然、流動資産の現金・預金などない状態だったのだ。
unizouは、もちろん貸せる余裕などないので、雑談的のような話になった。
「会社をこれからも継続していくつもりであれば、今の資産・負債の状況をしっかり把握したほうがいいですよ・・・」
「そんなの分かってるけど、やってどうなるの?今、食べていくのがやっとだよ!」
「いや、自分の体力が分からなければ、これから先どうしたらいいのかも分からないでしょ。それに、きちんとしたところに融資を申し込むとか・・・」
「銀行は相手にしてくれないよ。もともと、騙されて買ってしまったようなものだから・・・」
「それでも、やるべきことは、あるんじゃないですか」
「税金の滞納をしているところに融資をするわけないじゃない!」
「税金も滞納しているんですか?」
「そうだろ、源泉所得税や消費税なんて、運転資金に回すに決まっているじゃない。お金があっても、それが色分けされているわけじゃないんだから・・・」
「でも、サラ金も税金も利率が高いでしょ。お金のやりくりが苦しいのに、高いところから借りているなんて・・・。資金繰り表を作ってみてはどうですか。上場企業だって、短期、中期、長期の計画を立て、資金繰り表を作っていると聞いてますよ。」
こういったやり取りがあった後に、言われたのがはじめの言葉である
PHP文庫で出版されている「資金繰りがよくわかる本」北條恒一著に、次のようなまえがきがある。
ねらいを会社の若い経理マン、そして中規模以上の会社の経営者にあてました。きいたところ中小の会社は、資金の流れについて行き当たりばったりのところが多いとのことです。それでは経営がうまくいくはずがないと思い、資金繰りと経営とを結びつけながら、いろいろな角度から集めた生きた資料をもとにして解説しました。(中略)
景気の好不況にかかわらず、経営を生かしていく資金という血液の流れをスムーズにすることは大事なことです。人間の体をよく見てください。脳の血管がつまれば脳血栓で倒れてしまいます。会社の経営も同じことです。資金の流れがうまくいかないときは、倒れてしまう恐れがあります。商的企業の場合だと、仕入れ代金が払えないとか、支払手形を期日に落とせないといった状況になったら、もう終わりです。
そうならないためにどうしたらよいのか。難しいことではないのですから、資金繰り表をつくって、経営者は常々資金の流れをみることを心掛ける必要があります。
借金を申し込んできた会社が、その後どうなったのか知らない。たまに、そのラブホテルの前を通ると営業はやっているが、経営者が変わったのかもしれない。
今思うと、その経営者の当初の見込みも悪かったかもしれないが、悪くなっていく過程でやるべきこともあったのではないかと思うところもある。
こういった会社を見る限り、著者が書いているように、「中小の会社は、資金の流れについて行き当たりばったりのところが多い」というのは、真実なのだと思う。