会社の救済=人生の救済

 NHKで放映中の「プロフェッショナル 仕事の流儀」は、さまざまな分野の第一線で活躍中の一流のプロの「仕事」を徹底的に掘り下げるドキュメンタリー番組(http://www.nhk.or.jp/professional/index3.html)。
 昨日の放送は、「どん底の会社よ、よみがえれ」と題し、企業の再生を一手に担っている弁護士の村松謙一氏(51歳)が取り上げられていた。
 氏は、倒産寸前に追い込まれた会社に駆けつけ、再建を助ける、再生専門の弁護士として、一部上場企業から個人商店まで、これまで100社以上をよみがえらせてきたそうだ。
 氏の一番の仕事は、追い込まれた経営者の代理人として会社の舵(かじ)を取り、再生の道を探ること。そこには、倒産を苦に自殺に走る悲劇をなくしたいという強い思いがあるという。
 印象的だったのは、村松氏が番組中何度も語っていた「会社の救済=人生の救済」であるということ。「倒産は確かに自己責任かも知れない。だが、その陰で何千もの人の命が失われている。弁護士として、その事実を見過ごすわけにはいかない。」
 今、日本の中小企業のほとんどが、会社の運転資金を金融機関からの借入れに頼っている。
 実際、会社の経営が行き詰まったとき、自宅などの生活基盤を失い、自らの命を絶つ経営者が今も後をたたない。経営不振の責任をとるため、生命保険金で借入金を弁済するためと、経営者の自殺を報じる新聞記事を時折目にする。村松氏は弁護士として、金が命を奪う悲しい連鎖を断ち切りたいと考えていた。自身も8年前長女(15歳)を病気で失うという悲しい過去を持ち、愛する人を失うことを身をもって経験している。
 実際、村松氏の元には、毎日崖っぷちの経営者が相談に訪れていた。村松氏が第一に考えるのは、経営者の保護、弁護士とは、「護」ることがその使命。そして会社を再建したいという気力が残っているか、命を絶つ恐れはないか?まずは、終始穏やかな口調で相手の悩みを丹念に聞き、不安を和らげる。もちろん優しさだけでは、倒産から会社を救うことはできない。経営者の不安を取り除いた後、徹底して失敗の原因を探り、経営者に同じ過ちを繰り返さぬよう、たたき込む。失敗を正面から見つめさせ、その上で、経営再建のための合理化プランを、法律を駆使しながら一緒に実行していく。
 時に、銀行や取引先等に負債減額の申し入れを行うなどギリギリの折衝・交渉をしなければならない局面を迎える。
 その窮地を救い切り抜けるのは、「正直」であること。はったりや口先だけでは、交渉は乗り切れない。会社の実態について正直な数字を示して頭を下げ、何度でも足を運ぶこと。誠意を見せることでしか、相手は交渉の土俵に乗ってはくれない。そして相手を土俵に乗せたところで、過去でなく未来を語る。未来の利を徹底的に説くのだそうだ。
 困りきって、自分たちを頼ってきた人々をけっして見捨ず、なんとしてでも護りぬこうとする強い使命感をもって中小企業再生に臨む村松弁護士の姿勢に深い感銘を受けた。