実用新案権とバリアフリー

 一昨日のブログに、特許権のことを。そして、昨日は、一部上場企業でさえも信用できない、結局、社会は信用できないと書いた。
 今日は、実用新案に関連して、「世の中には信用できる会社もあり、見捨てたものでないな」と、一転して思ったことについて書こうと思う。
 以前、社内研修で、手話通訳士で、NHK教育テレビ「手話ニュース」のキャスターとしてご活躍中の中野佐世子(なかのさよこ)氏による「はじめの1歩」と題した講演を聞いて、感銘を受けたことを書いた。(2005.12.21「心のバリアフリー」)
http://d.hatena.ne.jp/unizou1972/20051221

(中野先生)
 皆さんは、目の悪い人のために作られているもので身の回りにあるものを知っていますか?
 毎日、使うものですが、どうでしょう?
(受講者)
 シャンプーかな・・・?
(中野先生)
 そうです。健常者でも、洗髪時、目をつぶっていてはシャンプーとリンスの区別がつきにくいですよね。ましてや、目が悪い人にとっては、健常者以上に見分けがつかないものです。
 花王株式会社(Kao Corporation)には、毎年数件ずつ消費者相談窓口にこのような相談が寄せられたというのです。そして、 このような要望を聞いて、商品をより良くするための容器研究を始めたそうです。
 たくさんの声を聞いて、調査研究をして、最終的に、誰もが触ってわかりやすいように、またデザイン的にも完成度が高い「きざみ入り容器」を選定したということです。
 そして、花王は1991年7月に、「きざみ入り容器」の実用新案を出願しました。
 ところが、花王が偉かったのは、結局、花王は、その実用新案の申請を取り下げ、シャンプーのきざみが業界統一のものとなるよう日本化粧品工業連合会を通じて業界各社に働きかけ、今、皆さんがどの会社のシャンプーを手にしても、同じようにギザギザが付いているということになっているのです。
 花王は、「調査研究をして、一番いいと思った製品を実用新案にすれば、他社が作るのは、2番目にいいものになる。結局、困るのは、目の悪い人を含めた消費者ということ」と考えたそうです。
 シャンプーの他にも、世の中には、携帯電話のダイヤル、ビールのプルのところの点字など、目の悪い人のための工夫がされている商品がたくさんあります。
 大事なことは、世の中には目が悪い人など身体に障害を持つ人たちが一緒に生活していることを、心の中に思い描いて、関心を持っていることです。

 シャンプーのきざみ入り容器の開発については、花王株式会社ホームページ「バリアフリー社会の推進」に詳しい。
http://www.kao.co.jp/corp/citizenship/c6/c6-1-1.html
 診断士の試験範囲には、「経営法務」の中で学習する知的財産権、つまり先日書いた「特許権」、今回触れた「実用新案権」のほか、「意匠権」「商標権」「著作権」がある。
 なぜ、企業が、特許権などの知的財産権を取得するかを具体的に言えば、

  • 他社製品の市場参入を阻止し、自社製品の市場占有率を上げる。
  • 他社にライセンス供与をし、ロイヤリティ収入を得る。
  • 広くライセンスを供与して、自社技術のデファクト・スタンダード化を図る。
  • 他社特許と自社特許を相互にライセンスしあって(=クロスライセンス)、自社事業の自由度を確保する。

ということである。(資格の学校「TAC」経営法務テキストより引用)
 診断士は、こういった学習を基に、企業に「他社との差別化を図りつつ、競争優位性を持たせる何かを財産化する」ことをカウンセリングする。
 その時の講演を思い出すと、知的財産権の使い方次第で困る人が出てくる場合もあり、信頼を欠くことになりかねないということである。
 そして、短期的な利益だけを追求するのみでなく、その企業の存在価値を永遠に揺ぎ無いものにするためには、企業に対する信頼こそが大事だというのも事実である。
 診断士としては、肝に銘じなければいけないことかもしれない。