会社法vol.3

 法務省民事局によると、今回の会社法制定の目的は、①最近の社会経済情勢の変化への対応等の観点から,最低資本金制度,機関設計,合併等の組織再編行為等,会社に係る各種の制度の在り方について,体系的かつ抜本的な見直しを行う。②商法第2編,有限会社法株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律等の各規定を現代的な表記に改めた上で分かりやすく再編成する。ことだそうだ(http://www.moj.go.jp/HOUAN/houan33.html#03)。
 最近の社会経済情勢の変化の代名詞とも言える「規制緩和」の考え方も多く採用されているように感じる。
 中でも驚いたのは、取締役の欠格事由から破産者が削除されたことだ。
 旧商法では、株式会社の経営を委ねるのにふさわしくないと考えられる者を取締役から排除するため、取締役の欠格事由を定めており、その中に、「破産手続開始の決定を受け、まだ復権を得ていない者」という規定があった。つまり破産者は、復権(破産者の法律上の制限(例えば、税理士になれない、後見人になれない等)を解き、権利や資格の回復を図るための制度)しない限り、会社の取締役にはなれないということだ。これは、「復権を受けない限り自分の財産を管理できないのだから、他人の財産を管理することができないのは当たり前」と考えられていたためだ。
 しかし、新会社法では、「破産手続開始の決定を受け、まだ復権を得ていない者」という規定が削除されている。この改正により、破産して復権していない人でも、会社の取締役になれるようになる。
 確かに、旧商法でも、破産後に復権すれば、会社の取締役になることができるが、破産手続を開始してから免責(債権者に対する債務の全部についてその責任を逃れること)復権するまでには、おおよそ3〜6ヶ月の期間がかかる。
新会社法では、“早期の社会復帰を促す”という趣旨で、復権していない自己破産者でも、
破産者が早期に経済活動を再開できるようにするために、破産者に対する資格制限が撤廃されたのだ。
 特に、中小企業の社長やその妻(取締役)の破産の場合には、経営者が会社の債務について個人保証をしているケースが多く、その結果、経営者自身も破産に追い込まれるケースも多く見受けられる。
 このような場合、経営者に不動産等のある程度の資産もあることもあって、免責の決定を得るまでに相当の日数を要している事も少なくなかった。
 そこで、早期に会社の取締役として経済的再生の機会を与える事が必要であるとして、実業界から当該規定の削除を求める声が多く有ったのだという。
 そこで、新会社法では「破産手続開始決定を受けて復権していない者」を取締役の欠格事由からはずす事とし、このような者を取締役に選任することの適否については、当該会社の株主総会の判断に委ねることにした。
 日本は一度事業に失敗すると復活するのが難しいと言われているが、これで多少は、失敗してもリベンジできる環境が整備されたと言うが、果たしてこれでいいのだろうか。
 バブル崩壊後、破産件数の増大に伴い、平成17年1月1日から施行された新破産法では、破産手続きが迅速化・合理化され、各手続を簡易で柔軟なものにしているからだ。
 理由はどうであれ、破産者は、経営なり、家計なりを一度は破綻させている事実がある。
そういった者を直ちに別の会社の取締役に登用できるとなれば、相当のチェック期間が必要であろう。日本の会社、特に中小企業の株主総会にそこまでのチェック機能があるだろうか。
 困るのは、取引先であり、債権者である。
 会社法の主たる目的は、取引の安定と債権者保護の2本柱である。今回の改正で、債権者保護の観点が置いてきぼりされているような気がしてならない。