シナジー、マズローと加藤諦三

 企業経営理論で学習したシナジーについて、中小企業診断士の資格取得のため勉強を始める少し前に、ある本を読んで心に残っていた。
 最近は、マスコミが所得格差や拝金主義を取り上げて、何だか息苦しくなりがちなのだが、その本を読めば、小泉首相構造改革を始めたからそうなったというわけではなく、本当はそれぞれの人の心が、そういう方向へ向かわせているのだということを皆さんも感じると思う。
 中小企業経営理論で学習したシナジーは、領域決定と資源展開パターを通じて得られる相乗効果をいい、「販売シナジー」「生産シナジー」「マネージメントシナジー」などを言う。「販売シナジー」は、既存の販売にかかる経路、組織、手法などを利用して生まれるシナジーであり、「生産シナジー」は、既存の生産にかかる設備、技術ノウハウなどを利用して生まれるシナジーのことである。
 しかし、unizouが読んだ本「賢い生き方・愚かな生き方(著者加藤諦三 三笠書房刊)」には、心理面でのシナジーについて書いてあった。
 シナジーについての話を要約して述べるとこうである。
 私たちは、何かをやりたいから何かをするのではなく、不安だからとか損だからすると言うことが多い。そして、不安なとき所有に執着する。
 著者は、例として、現代人が良く車に執着するということを上げ、本当に車が欲しいから買うわけでなく、皆が持っているという理由で買い、そのお金のために苦労する。そして、買えば、使わなければ損だということで無理に使い、行楽地に出かけ、渋滞に巻き込まれて疲れる。自分の生活を豊かにするために車があるのでなく、逆に自分の生活を追い立てるために車があるという。
 そして、同じく企業経営理論で学習した「欲求段階説」のアブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow, 1908年4月1日 - 1970年6月8日 アメリカの心理学者。)が、著作「人間性の最高価値」でマズロー自身が体験したことを書いた内容を紹介している。

 マズローは、インディアン居留事務所の白人秘書官に、村で誰が一番金持ちかと聞いた。 白人秘書官は、最も多くの牛や馬の所有者の名前をあげたが、インディアンたちに誰が金持ちかと聞いても、その人の名前をあげず、皆が軽蔑したように「彼は馬を抱え込んでいるだけさ」と言った。
 そして、インディアンがあげた金持ちは、無一文で、気前の良い人だった。
 また、彼の通訳をした人について、彼は金持ちで、村でたった一人の車の持ち主であったが、車をほとんど使わない。村のものがかわるがわるに借りに来て、貸してあげている。人のためにガソリン代を払い、タイヤのパンクを修理してやっている。
 彼は、車を持っているのが村で自分一人ということにプライドを持ち、「よろこびと、人に感謝されている満足感があり、そのために人のねたみも悪意も敵意もかうことがない」。

 彼は、車を買うお金を稼ぐために無理して働き、体をこわすこともなく、買ったのだから使わなければ損だと、不快な体験に耐えることもない。
 しかし、著者の加藤諦三氏は、実際の社会では、「気前がいい」ということも、「他人に気前が良いと思われたくて気前良くする。」という幼稚な気前よさもあるという。情緒の成熟としての気前よさは、所有欲をはなれ、物に執着しないという意味での気前よさだという。
 また、気前の良い人間を見くびり利用し、甘く見て軽蔑する人もいるという。
 気前の良い人を賞賛し、尊敬する社会。それは、その社会の一員の行動が、その人だけでなくその集団にも役立つような社会、機構を備えている。そういった文化を「ハイ・シナジーの文化」と呼び、逆に、一個人の利益は、他人を打ちのめした上で獲得した利益であり、打ち負かされた大半は、我慢をして、しのいでいく文化を「ローシナジーの文化」と呼ぶそうである。
 今、私たちを取り巻く社会は、加藤諦三氏のいう「ローシナジーの文化」になってしまっているのだろう。これは、一部の人達が悪いのではなく、unizouも含めた一人ひとりが、そういう心で、豊かに生きられないように自ら選択しているのだと思う。
 真に賢く生きるために、自らの生き方を選択することが必要なのだろうと思う。