需給バランス

 3科目目の「経済学・経済政策」が始まった。
 経済の初歩で学ぶことと言えば、「需要と供給のバランスの取れたところで価格が決定され、価格は安定する。」ということだろう。
 現実の社会では、商品や製品の価格が需給と供給のバランスの結果設定されていることを実感することはあまりないのではないか。
 どうも価格は供給者主導で設定されているような気がする。
 学生の頃、東京・埼玉を中心に展開しているあるパン屋さんでアルバイトをしていた。
 アルバイト勤務体制は、早番(午前)、中番(午後)、遅番(夕方〜夜9:00)の3シフトで、平日の早番・遅番は、比較的主婦の方、平日の遅番と祝祭日は学生アルバイトが従事していた。
 よって、unizouも、平日は遅番、祝祭日は早番に着くことが多かった。
 そのお店は、1階が店舗、2階がパンの製造工場、3階が事務所兼休憩室で、毎日パンが焼けるたびに2階から香ばしいパンの香りが、お店に充満して、焼き立てパンはお客様の評判もよかった。
 2階で製造されるパンは、焼きたてを武器とするお店の看板商品を中心に15種類くらい、残りはもっと大きな工場で製造されては、毎日トラックで運ばれてきていた。
 朝は、通勤客や学生、日中は主婦、お昼時はOLさんや近くの専門学校生、そして夕方は会社帰りのサラリーマンやOLさんで、1日中、お店はお客でにぎわっていた。
 もちろん、時間帯ごとの客層に応じて品出しをし、棚の置き場を考える。
 当然その裏には、その店舗ごとの販売計画・販売目標があって、毎日のパンの製造個数や工場への注文個数があり、忙しさに応じてアルバイトの人数も決まってくる。
 その販売予測の読みの当たり外れは、遅番の時に分かる。
 閉店は夜9:00。お店のシャッターを閉めて片付けに入る。
 なんとそのお店では、売れ残りの個数をパンの種類ごとに全て数えた後、基本的に売れ残りは捨ててしまう。
 有りがたいことにアルバイトは好きなだけ持っていっていいと言われているが、持ち帰るにも限界がある。
 申し訳ないながらも泣く泣くパンをゴミ袋の中へ。だから、販売予測が当たれば、ロス(売れ残り)も少なくとても気分がいい、反対に雨・台風などで客足が遠のき、販売予測が外れるとロスが大量に発生し、食べ物を捨てるという罪悪感に捕らわれるのだ。
 痛たまれず、失礼ながら、一度、店長に聞いてみたことがあった。
 「ロスを捨てるのではなくて、翌朝低価格で販売してみたらどうか?」と。
 店長さんの答えはというと、
 「以前、前の日のロスを数個単位で袋詰にして、翌朝販売したことがあったよ。ただ、しばらくしたら、ロス狙いのお客様が増えてしまって、パンが定価で売れなくなり、かえって売上が減ってしまったからやめたんだ。」と。
 素人のunizouは、浅はかだった。
 確かに、相当数が翌日に安価で販売されるとなれば、定価で買うのを控えるお客様もいる。もちろん、焼きたてにこだわりをもっていただいている方は別だが。
 しかも、考えてみると、消費者の消費行動としては、明日食べるのためのパンを前日に買うことが多い。よって、翌朝そのタイミングで安売りをしたら、賢い近所のお客様は、朝安く買うことを当然選ぶ。通勤・通学途中で朝ご飯を買い求めるお客様も然り。
 当然のことながら、定価でパンは売れなくなってしまうという悪循環に陥る。
 しかし、なるほどとは思いながらも、やはり売れ残りを捨てる作業は苦痛であった。それは店長も同じこと。
 「ロスがでないように、かつ品不足にならないように販売予測をするのが難しいのだけれど、それが店長の腕の見せ所。」と店長さんは話していた。
 「価格が下がれば、需要が伸びる。」ことを体感した1コマであり、商品の販売予測、値付けの難しさを体感した1コマであった。