一触即発

 朝の出勤途中、乗換駅で「一触即発」しかねない場面に遭遇した。
 電車を降りて勢いよく階段を下ってきた30代半ばのサラリーマン、そしてホームへ向かいこれから階段を上ろうとする高校生が、出会い頭に鉢合せ、さぁ、彼らが取った行動とは?
 このような出会い頭のシチュエーションは、何も階段に限らず、道路っ端や会社の廊下でもよくあること。
 ときに互いに前を譲ろうとして、同じ方向に道を譲り合ってしまい、苦笑することもままある。いわゆる「お見合い」状態だ。
 しかし、この2人は違った。
 既に互いの距離が近づき、出会い頭にぶつかりそうになっていた。
 普通なら、避けるなり、歩く速度を落とすなりするだろう。
 しかし、まず聞こえてきたのは、「ドーン」という右肩どうしがぶつかる鈍い音。
 ぶつかっているにもかかわらず、それでも2人は互いに道を譲らない。
 そして2度目の体当たり。
 高校生の方が背も高く、体格が良いものだから、今度はサラリーマンの方がよろりとバランスを崩した。
 その隙に、当の高校生はと言うと、よろけたサラリーマンをしりめに前の開いた道を抜け、階段を上ろうとする。
 今度はサラリーマンの逆襲。
 体勢を整えながら、階段を上ろうとする高校生の足を、後ろから自分の足でひっかけて転ばせようとしたのだ。
 高校生は、足を取られ、前につんのめりそうになる。
 倒れこそしなかったからよかったものの、もしも転んでいたら、大怪我だ。朝の通勤ラッシュ時間帯、一般客の巻き添えだって食いかねない。
 最後にこの2人、互いをにらみつけながら、もとの自分の道へ戻って行った。
 「一触即発」。
 この間、2人は終始無言だった。
 Unizouは、駅のコンコースの傍らで、ことの成り行きを静観していて、空恐ろしくなった。
 これが、現代社会の心のひずみなのか。
 キレル若者と言うが、自ら敢えてキレようとするかのような行動だ。
 道を譲るなんて些細なことだ。
 それは、自分から折れることでも、自分の信念を曲げることでも、自ら観念することでも何でもない。
 こんなことが難しくなっているかと思うととても悲しくなった。