企業の社会的責任とコーポレートガバナンス

 昨日企業のコンプライアンス法令遵守)について書いた際に、国税の調査担当者が法令違反を知りえたのであれば告発すべきだと書いた。
 国税については、もう一つ重要なことを書いておきたい。
 それは、同族会社のことである。
 法人税法上に定義されている同族会社とは、

「株主等の3人以下並びにこれらの同族関係者が保有する株式の総数が、その会社の発行済み株式総数の50%以上に相当する会社」をいう。
(NIKKEINET BizPlus http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/zaimu/rensai/index.cfm?i=z_zeikin09) 

 平成12年の資料によると、稼働中の法人2,536千社のうち2,468千社が同族会社であるという。つまり、約97%が同族会社であるという。(国税庁企画課編(2001)「税務統計から見た法人企業の実態」)
 何が問題なのか?というと、同族会社の法人成りの経緯(どうして法人成りするのか?)という観点から考えて非常に問題が多いと思っている。
 このことは、2004 Rikkyo V-Campus サイバーラーニング 経済学部で坂本雅士先生の講義レポートにも見られる。

「戦後、法人成り(個人経営の事業が法人格を取得して法人化すること)の現象が顕著で、実態が個人事業と異ならない法人が多く、家族構成員を役員又は従業員として報酬・給与を支払い、所得を分割する傾向があり、また、利益を内部に留保して法人税率よりも高い所得税の段階税率の適用を回避する傾向が見られる。さらに、一人又は少数の株主により支配されており、所有と経営が結合しているため、不当な行為・計算が行われるやすく、その結果として、税負担が減少することが少なくない。そこで、同族会社に対する課税の特例を定めている。」
http://cl.rikkyo.ac.jp/cl/2004/internet/tunen/keizai/sakamoto/zemukaikei-21_22_23.pdf

 個人事業主でいるより税制上メリットがあるから法人成りしてはいるものの、会社としてのあるべき姿からはかけ離れている会社が多いことが問題なのだ。
 つまり、法人税法上の特典が、会社の本質のない個人事業者を会社にしているのだ。

 国税職員約5万人が、もし約2,468千社の同族会社が個人事業者と同レベルの帳簿類しか備えていない事業者だとして、国税としては、今でさえ調査割合が低いところであり「申告内容の是非を確認するなんて、とてもできない!」といったところが本音だろう。

 法人成りすることで、会社として必要な財務諸表が整備されることについては、一定の進歩であることは認めるが、それが会社として一番大事な企業の社会的責任(CSR)やコーポーレートガバナンスに立って行われていることを前提にしているのでなければ結局意味がないことではないだろうか。
 また、会社を私物化しないために、情報開示が行われていることも非常に重要である。
 今後会社としてあるべき姿を取り戻すために、必要なら法人税法の特典をなくすと同時に、税の負担の公平を守るため国税職員を増やして対処するか、職員を増やすことができないのであれば徴税にかかる事務量を削減するため不正ができないように法令を整備するしかないだろう。

 大企業のコーポレートガバナンスについても問題(①取締役と経営陣が重複し、経営陣として不適任であっても解任ができず、経営陣の反社会的行動にも歯止めが利かない。②取締役は内部の従業員の昇格者であり、牽制すべき対象者が自分自身より上級管理者であるため牽制機能が働かない。)があるが、中小企業については、その本質的な部分が会社とは異質であること自体が問題なのである。
 中小企業は会社でなくても良いのだから、社長が私物化しているのであればそのとおりして、自分の子や孫に継がせるのが一番良い。実態はそうなのに、形式だけ整えると後でしっぺ返しが来る。オーナー事業者なら、最後は自分で責任を取らねば・・・。     
 政治家や官僚を批判することはできない。