モニターは見た!新製品開発戦略

 「ミルパワー」という飲み物を知ってる?平成8年3月にサントリーから発売された乳性飲料である。今日は3回目の企業経営理論の講義でテーマは組織論だったが、今日の話は前回までの事業戦略の話。
 学生の頃、「商品モニター」のアルバイト(2時間で6,000〜8,000円が相場)をよくやった。企業は、新商品を発売するにあたって、調査会社に依頼して、モニターから意見を募ったり、仮の新商品を試させるなどして、その反応・反響を調査し、データ化して事業戦略の参考とするのだ。調査会社に登録しているモニター予備軍は、性別・年齢等で抽出されて依頼を受ける。実際に、清涼飲料水、シャンプー・リンス、お菓子、化粧品など経験したが、中には「『読書』について」なんていうのもあった。
 その中に、サントリーの新製品「ミルパワー」があった。その依頼は、依頼者からの第一声「サントリーが迷っている。」で始まった。なんでも既に200人対象のモニタリングを一度終えての再モニタリングだった。マーケティング理論によると、200人のサンプルを採るのも1,000人のサンプルを採るのも、好き嫌いの嗜好の比率や、意見のバラつきに変わりがないそうで、そのため企業は、より少ない人数で結果を得ることができる「200人」という単位でモニターを募ることが多いのだが、こと「ミルパワー」に限っては、各年代ごと(高校生、大学生、社会人、主婦等)で200ずつサンプルを採っても傾向がつかめないというのだ。それで再モニタリングとなった。
 モニタリング内容は、まず試飲からスタート、X・Y・Zと書かれた3つの紙コップに微妙に味の違う試作品が入っていて、その中でおいしいと思うものを2つに絞り、更に1つに絞ってほしいとのことだった。商品名(これは決定事項)から乳性飲料と想像されるように、味は、ヤクルト、マミー、ビックルなどとよく似ていて、既にそれらに馴染みあるせいか、あまり新鮮な感覚はなく、辛い評価をしたような記憶がある。
 次は、缶のデザイン、はじめに缶全体の色。試作品は3種、「青」を基調とするもの、「赤」を基調とするもの、「水色」を基調とするものだった。「ミルパワー」という言葉から牛乳→雪印牛乳(当時)を連想したため青色の缶を選択。
 続いて、缶の模様。これも牛の斑点模様、無地、水玉の3種ある中から、シンプルな無地を選択。
 更に商品名「ミルパワー」の表記。ひらがな・カタカナ・ローマ字の3種あって、それぞれにつき異なる書体のものが3種ずつ、計9種の中から「ミルパワー」の味、缶の色を踏まえて選び取って欲しいとのことだった。ひらがなは可愛らしく、やさしい印象の「みるぱわー」、カタカナは強くシャープな「ミルパワー」、ローマ字は洒落た感じの「mill power」と3者3様なのだが、カタカナを選択。
 最後にキャッチフレーズについての質問。「カルシウムのたっぷり入った新しいタイプの飲み物です。」、「カルシウム入り健康飲料ミルパワー」などいくつか予め用意された中からピンとくるものを選ぶというものだった。
 一通り、モニタリング内容を終えて、感じたことは、新商品の路線が分かりづらいということだった。乳性飲料市場では、既にヤクルト、マミーがある程度のシェアを占めていたから、「ミルパワー」という新製品でどういう勝負(戦略)にでようとし、そして市場でどの地位を狙おうとしているというのか。しかも、サントリーは既に「ビックル」で乳性飲料市場を戦っていた。コトラーの競争地位別戦略(業界における競争地位を市場占有率に基づいて、リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの4類型に分類し、それぞれの位置付けにある企業がとるべき基本戦略を示す)でいえば、ヤクルトがリーダー、マミー、ビックルがチャレンジャーなら、フォロワー・ニッチャー戦略なのか。
 その答えは、http://www.suntory.co.jp/news/1996/6759.html#millpower
 さてどう思う?
 ちなみにモニターをしたのは、平成7年秋、発売は翌3月、そして平成17年の今、「ミルパワー」を店頭で見ることはできない。