長期貸付金

 ずいぶん以前のことになるが、資金繰りが非常に悪化していた企業(有限会社)の決算報告書を見たことがある。
 流動比率100%以下。
 固定比率も資本合計のうちの利益剰余金が資本金を上回るほどマイナスなので、当然無限大となっている。
 固定資産は本来、負債に頼らずに自己資本の範囲内ですべてをまかなっていれば問題ないのだが、そうではない非常に問題な会社。
 もちろん、資本合計が赤字なのだから、そのことだけで会社が継続していてはおかしいのに、それでも、不思議なことに会社は多くの従業員を抱えて継続している。
 いま言ったことだけでも死に態の企業なのに、もっとunizouをびっくりさせたのは、長期貸付金の内容。
 社長と社長の父親である代表権のない会長に、1億円近いお金が長期貸付金として計上されていた。
 そして、その長期貸付金は、経営状態が悪い状況下で役員報酬を上げられないことから、生活費として貸し付けてきたものだという。
 しかし、2人で一億円もの金額となると、1年間に二人合計で1000万円の貸付としても10年になる。
 大体経営状況が悪いのに、年間1000万円もの返済期限のない貸付などする余裕はないはず。
 そして、さらにびっくりさせるのは、その貸付は日常的に行われていて、帳簿に記載されているのみであったことだ。
 さらに、金銭消費貸借契約もなければ、取締役会の承認も受けていない状況であった。
 もう完全に会長と社長の会社の私物化以外に何物でもない状況と言えた。
 こういった会社に連なっている人たち、例えば従業員、取引先などのステークホルダーは悲惨なものだ。何も知らずに、一生懸命会社を信じ、仕事をしている。
 会長、社長とも、従業員のことを思って一生懸命やっているというが、実際にこの決算書をステークホルダーが見たら、「この会長と社長は何をやっているのか」と愕然とするだろう。
 こういった事実を知っている税理士は何も言わず、会長と社長のやりたい放題である。
 一体この企業に存続する意味があるのだろうかと、当時思ったものだ。
 会長、社長、そして副社長には会長の妻。
 社長は地元銀行を辞めて若くして跡を継いだものの、会長の傀儡社長。
 そして、その人たちから当時unizouが耳にしたのは、「政治が悪い」、「行政が悪い」、そして「金融機関が悪い」といったことだった。
 経営能力のない人たちが会社の運営をしている現状こそお寒いことなのに、周りの状況ばかり批判している。
 そのときの面接だけで、その後その会社とのご縁はなかったが、ステークホルダーがいまどんな悲惨な状況になったか思うと胸が痛む。
 会社の本来あるべき姿を教えない税理士を含めた周りの人間も悪いが、こういった企業が日本国中に至るところにあるのかと思うと、改正会社法で機関設計の自由化が進んだことがいいのかどうか測りかねることがある。
 せめて、中小企業診断士の皆さんは、こういった会社に対し本来のあるべき会社の姿を熱く語って欲しいと思っている。
 unizouも中小企業診断士になれたら、クライアント契約を断られても、言いたいことは言うつもりでいる覚悟である。