松本引越しセンター社長の自殺で考える事業承継

 10数年前に引越しでお世話になった象のマークの松本引越しセンター。
 引越業者を選ぶとき、何もわからずに闇雲に引越業者に電話して、電話の応対、見積り時の対応や値段に納得してお願いした。
 当時は日通やヤマトなどの大手とは違い、関東圏に住んでいる人間にとっては、初めて聞くといった名前で、きっとその頃から全国的な展開をし始めた矢先でなじみがなかったのかもしれないが、今では道路で象のマークのトラックに出会うと当時のことを思い出させてくれるようになっていた。
 しかし、愚かなことにその社長松本修治社長(43)が自殺したというニュースをインターネットで見た。
 「どんな事情があるにせよ、自らの人生に幕を引くことは許されない」がunizouの持論なので、残念でならない。
 しかし、その原因を考えたとき、仕事において困難な状況に陥ったとことが第一の理由であるとしても、それ以前に問題はないのだろうか。
 そもそも先代の社長が築き上げてきた会社を引き継いだのが、間違いではなかったのか。
 彼自身やりたいと思っていたことがほかにはなかったのか?
 2004年版の中小企業白書「第3章 中小企業の世代交代と廃業を巡る問題 第2節 中小企業における経営者交代の実態1.経営者交代率の逓減」には、次のように述べられている。

 経営者と先代経営者との関係を見てみると20年以上前では79.7%の経営者が先代経営者の「子息・子女」であり「親族以外」の経営者が継いでいる割合はわずか6.4%であった。ところが、最近では「子息・子女」の割合は41.6%にまで減少し、逆に「親族以外」の割合が38.0%に増加している(第2-3-11図)。

 とはいえ、41.6%が未だに「子息・子女」が事業を承継しているという現状があり、今回の松本引越しセンターも「41.6%に含まれる」ということになろう。
 そして、次の項「2.事業承継の理由」では、「後継者教育実態調査」の結果から「事業を承継した者がどのような理由から承継しているか」を次のように考察している。

 最初に後継者全体の承継理由について第2-3-12図を見てみると、20年以上前に就任した経営者は「家業だから」とする理由が過半数であったのに対し、最近では26.2%までに減少している。この減少の理由は第2-3-11図で見たように経営者の子供が継ぐ割合が減っているからである。
 では、経営者の子供の承継理由にどのような変化があるのだろうか。承継理由を複数回答で見ていくと、「家業だから」と答えている経営者は20年以上前に承継した経営者では76.0%なのに対し、20年未満の経営者ではほぼ70%で横這いに推移している(第2-3-13図)。その一方、「従業員・取引先への責任を果たすため」や「会社経営に魅力を感じたから」と答える経営者が増えている。「家業だから」という理由だけでなく、それ以外にも承継する理由がないと継がなくなってきているようである。

 創業者である親が子に事業を引き継がせるのは、「人間本来」が持つ種の保存に近いものなのだろうか。
 しかし、所詮、親子といえども、遺伝子は異なっている。当然、その人生が違っていておかしくない。
 ましてや、企業は、創業者の所有物でもなんでもない。一旦創業し、それらに関わるステイクホルダーがいればその人たちにとっても重要なものになる。
 今回の松本社長の自殺は、企業経営が如何に難しいかという視点で捉えるのでなく、企業の社長職が、昔の大名のように世襲されていく現状こそが、社会にとっても、個人にとっても不幸な結果になることを示したものといえるのではないか。
 世の中の社長業に座っている人たちが、企業の大小に関わらず、社長業を世襲させることをやめていってほしいと思う。
 それこそが、企業のモラルを向上させ、一人の人間の尊厳を失わせず、与えられた命に精一杯花を咲かせることができるのではないかと・・・。