格差社会を生む物は何か?

 先日、長野県松本市に出張した。
 夕方ホテルに着いてテレビをつけると、前田中知事と村井現知事の県政の状況を比較していた。
 例えば、14年12月に松本空港を利用する日本エアシステムが松本〜福岡線の機体をジェット機からプロペラ機へ変更するとしたことに対する田中前知事の対応(マスコミを使って日本エアシステムのやり方を批判し、その後陳情等の行動をしなかったこと)と、今回、10月に路線廃止を決めていた松本−新千歳線を現行の週7往復から4往復に減らすとともに、機体もジェット機(134人乗り)からプロペラ機(74人乗り)に変えて存続させることで合意した村井現知事のやり方を比較し、痛烈に前知事のやり方を批判していた。そのほかにも、前知事がトップダウン方式であったためレクチャーが多く資料作成に時間がかかって残業時間も多かったことについて、村井知事は各部署の判断を優先するなどしているため、残業時間が10%〜20%削減され、金額にして数億円も残業手当が減ったということまで報道していた。
 夜行った飲み屋では、隣で友人たちと飲んでいた中小企業の社長さんらしい人が、「田中県政の脱ダム宣言で公共工事がなくなり、土木を始め建築関係の多くの業者が倒産・廃業し、今では、残った企業も県外に出て、ほとんど居なくなってしまった。田中知事が10年、20年かけてやるべきことを急激にやったせいで、長野県はどうしようもなくなった。俺の経営しているパブもお客は一時期の4分の1程度になってしまった」と大声でがなりたてていた。
 その中小企業の社長は、高速道路用地に自分の土地がかかったため、その収用代金でパブをやり始めたというようなことも大声でしゃべっていた。
 公共工事から収入を得る人。こういった人たちは、すべて、既得権益を持っていたり、土地を持っていたりする人たちで、すべてが商売の才能(儲ける才能ではなく、消費者を適正な対価で喜ばせる方法)のある人ではなかった。
 しかし、そういった人たちが、以前の活況を呈していた経済状況の中で、持っている富で富をさらに増やしていたのが現実なのである。だから、格差社会は最近から始まったものでなく、以前からあったと言えるのではないか。そして、以前は、今より悪いことに機会の不平等も多かったのだ。
 では、最近になって、ことさら格差社会を取り上げ始めたのは、なぜだろうか。
 格差社会を受益していた人たちが既得権益を失って、今までのような生活ができなくなったことで、騒ぎ立て始めている声も含まれているのではないか。
 もうしばらく前になるが、読売新聞で「格差社会を考える」と題して特集を組んでいたことがあった。「経済学的思考のセンス」の著者で大阪大学大竹文雄教授の主張は、今述べたようなことを論理的に主張されていて、共感を覚えるものだった。
内容を要約すると・・・

 1980年前後から日本人の所得の差は拡大している。その最大の原因は、年齢が高いほど、同じ年齢でも人々の所得格差は広がること。日本では、高齢者世帯が増えたのでジニ係数が高くなった。ただし、若年層で失業やフリーターが増えていることから、例外的に30歳未満で差が広がっている。

 構造改革が進むと参入障壁に守られていた産業は自由化されるので、そこで働いていた人にとっては確かに所得が減る。しかし、新規に参入する人も出て、新規参入者にとっては新たなチャンスが広がることから、構造改革は機会の均等を広げるものであり、結果的に所得の差を縮める方向に働く。

  • 規制緩和が倫理観の欠如や1人勝ちの風潮を招くか 

 耐震構造問題やライブドア問題は、不正監視システムが不備だったことが主因であり、規制緩和が原因ではない。

  • 「勝ち組」「負け組」の二極化が進む現状をどう見るか。どうすればいいか。 

 「勝ち組」の人の「勝てたのは自分の努力の結果で、負け組は努力が足りない」といった考えのエスカレートは、日本に対立の社会を作ってしまう。
 スピードの早い規制緩和や技術革新に対応できない人をすく上げる社会保障制度などのセーフティネットを拡充することが重要。親の所得や職業が子どもの所得水準に大きな影響を与えるような、本人の努力とは無関係に生まれた環境で差がついてしまうような社会は望ましくない。そのため、所得税累進課税相続税の強化は二極化をなくすひとつの方法。

 
 政治も小泉前総理のやってきた流れからの揺り戻しも大きい。
 しかし、私たちは何より自由な国に生まれて生きている。(あまり、それを実感し貴重なものと認識していない人が多い。失いやすいものであるにもかかわらず・・・)
 どんな夢も希望すれば叶えられる社会であってほしいと思う。
 そのためには、規制緩和をし、平等な競争ができるよう不正に対する監視システムを構築し、そして、失敗しても立ち直る機会が与えられセーフティネットのある社会の実現こそが大事なのだと思う。
 決して「格差社会をなくそう」などという甘言にのらせれて、本質を見失い、選択の自由、機会の平等、公正な競争社会を失わないようにしたいと思っている。