人間の弱さ、「『いい人』をやめると楽になる」・・・?

 「『いい人』をやめると楽になる」という本を、作家曽野綾子さんが祥伝社黄金文庫から出版している。
 まえがきにはこうしるされている。
 「『いい人』をやめたのはかなり前からだ。理由は単純で、いい人をやっていると疲れることを知ったからである。それに対して、悪い人だという評判は、容易にくつがえらないから安定がいい。いい人はちょっとそうでない面を見せるだけで批判され、評価が変わり、捨てられるからかわいそうだ」
 実は、unizouも「いい人をやめる」よう心がけているのだが、これが実に難しい。
 自分が見栄っ張りで、いいかっこしいで、そして、周りの人間と見せ掛けの仲良さを取り繕いたいと、つい思ってしまうのである。
 そして、それ以上の理由は、孤独や寂しさに耐えられなくなる人間的に弱い自分がいるからである。
 つまり、曽野綾子さんのようになるためには、相当強い自分がいなければならない。
 相当強い信念を持っていなければ、いい人をやめることはできないと思っている。
 実は、先日こんなことがあった。
 unizouは、自分のフロアーにいる社員をずっと見ているというわけではないが、立場上良く観ている。
 その中の一人、M君が以前からずーっと気になっていた。
 中堅社員のM君は支社での経験もあり、unizouの支店に来てからも、真面目で仕事は一生懸命、実績も申し分ないという状況である。
 しかし、通常の業務と別に新入社員Oさん(女性)の指導を任されていたのだが、これが、どうにもうまくいっていないという感じなのである。そして、それだけでなく、同じ係の中でも、浮いた存在のようになってしまっているようなのだ。
 そこで、彼から話を聞くことにしたのだ。
 いや、彼に「負けないよう」伝えたというのが、正しいかもしれない。
 というのは、新入社員のOさんは、上司と馴れ馴れしく、友達みたいな感覚で周りと接し、結果として、好き嫌いで周りの社員と接しているような状況である。
 つまり、自分にとって聞き心地のいい言葉をいってくれる人の話は聴くが、耳に痛いようなことばをいう人に対しては、毛嫌いするという感じなのである。
 そんなOさんに対し、仕事の仕方、職場でのマナーを教えるのだから、うまくいくはずがない。もともと、 そんなことは、耳に痛いことばばかりである。
 しかし、unizouにとっても、職場にとっても、M君は大事な存在である。
 人から嫌がられるようなことを、その人のために、組織のために本気で言ってくれるような人を失ったら、Oさんにとっても大きな損失だし、組織にとっても大きな損失である。
 「指導するのはいろいろ難しいところもあると思うけど、自分を追い込むなよ」
 「はい。自分なりにやり方が悪かったのかなと、反省はしています。もっと、うまく指導できなかったのかなって・・・」
 「いや、そういう風に考えることは大事なことだけど、相手がいることだから、考えるだけで、自分を責めるようなことはするなよ」
 「はい」
 「これは持論なんだけど、好きで一緒になった夫婦でさえ離婚することがあるくらいだよ。好きで一緒になったわけでもない職場の人間が、好き嫌いといった次元で話をすれば、うまくいかないに決まっている。だから、どういう仕事をどんな風にみんなでやっていくかということが大事なんだと思うよ。彼女は、それに気づくべきなんだろうな。君が、反省することは大事だと思うけど、大事な存在なんだから、自分を責めたり、追い込んだりせずに、負けないで今までどおりやってよ。」
 相当我慢しながらやってきたのだろう、彼の目から一筋の涙が零れ落ちた。
 きっと、直属の上司、周りの同僚でさえ話を聞かずに、自分ひとりで耐えてきたのだろう。
 このOさんを取り巻く先輩には、S君というM君と同世代の社員がいる。
 S君もM君同様、真面目で仕事は一生懸命やる人間である。
 このS君に、M君と話をする数日前のことになるが、別件で話をする機会があった。
 そのとき、Oさんの話がでたのだが、SさんもOさんとの関係では彼なりに悩んでいた。
 彼の言葉で言うと、次のような感じだったと思う。
 「物分りのいい兄貴を演じているだけなんですよね。言わなければいけないことを言えずに・・・」
 そのとき、unizouはこういった。
 「そうね。言わなければいけないことを言えるのが大事だよね。もちろん言い方に工夫もいるけど・・・。
 でも、そんな風に悩んでいることが大事なんだと思うよ。やりたいけどできないと・・・。悩みもしない人には成長がないから・・・。これから、少しずつやっていったらいいんじゃない」
 unizouだけではない。人間、誰でも、孤独や寂しさに耐えるのは、大変なこと。
 曽野綾子さんの本「『いい人』をやめると楽になる」には、「敬友録『いい人』をやめると楽になる」とある。
 真に友を敬うということは、言いたいことを相手のためにいい、相手がそういう気持ちで言ってくれているということを知っていることだと思う。
 そういう職場になれば、すばらしいだろうと思うのだが・・・。