会社法改正と中小企業の資金調達に見る実態

 ここのところ、資格の学校の講義で学習している「経営法務」の復習以外に、「中小企業経営・中小企業政策」を平行して復習している。
 今日は、ここ数日で復習した中小企業の資金調達について、会社法の改正と絡んで、「本当に改正が良かったのか」と考えさせられた点について書こうと思う。
 中小企業金融の特性を「中小企業白書(2005年版)」で見ると、規模が小さいほど不利な資金調達条件であるという。
 それでは、条件面でどのような違いがあるかというと・・・。
 まず、第2-2-16図「メインバンクへ提供している保証人の種類」に見る。
 保証(人的担保)提供について言えば、従業員規模が小さいほど、メインバンクへ提供している保証人の種類で「代表者」「代表者の親族」の割合が高い。
 そして、金融機関が代表者保証を求める理由を第2-2-34図「金融機関が代表者保証を求める理由」に見ると、「経営者と企業の一体性が高い」が92.6%、次いで「経営責任の明確化」88.3%となっている。
 確かに中小企業の資金調達が難しいという点は理解できるが、金融機関が代表者保証を求める理由「経営者と企業の一体性が高い」「経営責任の明確化」という視点こそが、日本における中小企業の実態そのものである。
 しかし、会社法は、その実態を無視している。法務省のホームページで「会社法の概要」第2、1(1)で見ると・・・ 

 いわゆる株式譲渡制限会社(その発行する全ての株式についてその譲渡につき当該会社の承認を要する株式会社)について取締役の人数規制や取締役会の設置義務が課せられない現行の有限会社型の機関設計の採用を認めるなど,株式会社における定款自治の範囲を拡大し,その規律の多様化・柔軟化を図ることにより,現行の株式会社と有限会社の両会社類型を1つの会社類型(株式会社)として統合しています。

 株式譲渡制限会社で大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上「いずれも最終事業年度に係る貸借対照表に計上したもの」)以外のもの、つまり、中小企業そのものだと思うが、監査役監査役会、会計監査人、そして会計参与も、すべて任意となっているのである。
 一体、これで、債権者保護が図れるのだろうか?
 いや、取引先とかいった中小企業に関係する人たちの保護だけでなく、社会における公平や公正さは担保されるのだろうか。
 日本においては、税制上の優遇措置が個人事業主であるよりも大きいという点からも、個人事業者(代表者と企業が一体)といえるようなところでも、従来から「会社」組織に変えてきたという歴史がある。
 確かに、会社法440条で「計算書類の公告」が定められてはいるが、「公告」も「官報」に記載されるのでは、本当の意味でのディスクロージャーになるのかという疑念もある。
 中小企業の閉鎖性という実態に合わせて、株式譲渡制限会社を認めていくことは、確かに経済面での効果はあるのかもしれないが、長い目で見れば中小企業自らのあり方を信用ならないものにさせていくのではないだろうか。つまり、金融機関が代表者保証を求める理由を、自ら認めてしまう結果にならないのだろうか。
 最近話題の耐震強度偽装事件でも、株式会社ヒューザーの小嶋社長は、元妻に財産分与しているという噂もあるし、構造計算書を偽装した姉歯秀次元1級建築士(48)の黒幕とされる経営コンサルタント総合経営研究所(総研)」の内河健所長(71)についても、一部報道で「参考人質疑を欠席した翌日の今月8日に離婚した。だが、妻とは同居している」と伝えられ、「妻側に財産を分けて守る“偽装離婚”ではないか?」との憶測が流れていた。「この時期の離婚は財産保全と言われても仕方ないですよ」と指摘されてもポーカーフェースだったと報道された。
 債権者も保護できなければ、公平で公正な社会にもならない。
 一番問題なのは、きちんと取り組んでいる真面目な中小企業に対しての見方が、こういった企業に対する見方と一緒になることである。
 であれば、合名会社(無限責任社員しかいない会社)や合資会社無限責任社員有限責任社員の双方が存在する)ほうが実態と合っているし、クリーンで世間の信頼も高まると考えるのだが・・・。
 もし、株式譲渡制限会社として世間の信頼を高めたいと考えるのならば、監査役や会計監査人を社外から採用して、公正さをアピールするほうが資金調達もぐっと楽になると思っている。